東京地方裁判所 昭和63年(ワ)2295号 判決 1989年9月27日
原告
株式会社アニマルヘルスフード
被告
堀田株式会社
右当事者間の昭和六三年(ワ)第2295号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、二一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。
登録番号 第一四四五四〇四号
考案の名称 なす鐶
出願 昭和四八年二月一六日
出願公告 昭和五六年一一月六日
登録 昭和五七年八月一三日
実用新案登録請求の範囲 本判決添付の実用新案公報の該当項のとおり
2 被告は、遅くとも昭和五七年五月ころから、業として別紙目録記載のなす鐶(以下「被告製品」という。)を販売している。
3 被告製品は、本件考案の技術的範囲に属する。
4 被告は、故意又は過失により、被告製品を販売して本件実用新案権を侵害したものであつて、原告は、被告に対し、被告がその侵害行為により得た利益の額を自己が受けた損害としてその賠償を請求することができるところ、被告は、昭和六〇年三月一日以降同六三年一月末までの間に、被告製品を一個当たり七〇円で毎月二万個、合計七〇万個販売し、一個当たり三〇円、合計二一〇〇万円の利益を得たものである。
5 よつて、原告は、被告に対し、右不法行為による損害賠償として、二一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。ただし、被告が被告製品の製造販売を開始したのは、昭和四六年である。
3 同3の事実は認める。
4 同4の事実は認否する。
三 被告の抗弁
被告は、昭和四六年七月ころから、被告製品の製造を開始し、次いで、同年一〇月ころから、被告製品の販売を開始して、現在まで被告製品の製造販売を継続しているものであるから、本件実用新案権について先使用による通常実施権を有する。
四 被告の抗弁に対する原告の認否
抗弁事実は認否する。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人当記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1の事実、同2のうち、被告が業として被告製品を販売している事実及び同3の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、被告の抗弁について判断するに、成立に争いのない乙第一号証、第一四号証の二ないし九、証人根本一男の証言により真正に成立したものと認められる乙第六ないし第八号証、証人野口宏の証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証、被告代表者堀田義弘尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二ないし第五号証、第一〇ないし第一三号証、第一四号証の一並びに証人根本一男、同野口宏の各証言及び被告代表者堀田義弘尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
被告代表者堀田義弘は、昭和四三年八月から九月にかけて、長崎県特産品ロスアンゼルス見本市経済使節団の一員として渡米し、カリフオルニア州アルハンブラ、ウエストバレー、ブールバード二八八五所在のカスタム メード キヤンバス カンパニーを訪問した際、同社の製造販売に係る「スウイベル・アイ・スナツプ」の見本数個と同社の製品カタログを入手した。被告は、昭和四六年初め頃、右の「スウイベル・アイ・スナツプ」の見本をもとに、されを若干変更したものを製造することとし、有限会社野口工場(以下「野口工場」という。)に被告製品の製造を依頼し、野口工場は、そのための金型(ダイカスト)の政策を有限会社根本金物(以下「根本金物」という。)に委託した。根本金物は、野口工場から交付された木型見本を基にして、同年三月一六日、金型製作用の図面を作成し、その図面に基づいて被告製品の中型品の金を、次いで、同年四月六日に作成した図面に基づいて被告製品の小型品の金型を、更に、同年五月四日に作成した図面に基づいて被告製品の大型品の金型をそれぞれ製作して野口工場に納品した。野口工場は、同年七月一九日以降、右各金型に基づいて製造した被告製品を被告に納品するようになつたが、被告は、被告製品を商品として販売するについてその品質を確認するため、同年八月ころ、通産省産業省工業品検査所大阪支所に被告製品三〇個の破壊強度試験を委託し、同支所は、右強度試験を行い、同年八月二三日付検査証明書を被告に交付した。被告は、右強度試験によりほぼ良好な結果が得られたので、一部金型を手直ししたうえき、同年一二月から、被告製品の販売を開始した。被告は、右以後、被告製品の製造販売を継続して現在に至つている。なお、被告は、本件考案の内容を知らないで被告製品の製造販売を開始したものであり、また、前述のカスタム メード キヤンパス カンパニーも、本件考案の内容を知らないで「スウイベル・アイ・スナツプ」を販売していたものである。
以上の事実が認められ、原告代表者荒川信尋問の結果中、右認定に反する供述分は、前掲各証拠に照らし直ちに採用することができず、他に右認定を覆するに足りる証拠はない。
以上認定の事実によれば、被告の先使用による通常実施権の抗弁は、理由がある。
三 よつて、原告の請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水利亮 裁判官 設楽隆一 裁判官 長沢幸男)
<以下省略>